「AIアプリを作りたい」と思っても、何から手をつければよいのか、自分の会社でも作れるのかは分かりにくいものです。社内で「生成AIを使った道具を作れないか」と言われた方や、開発会社の提案を判断したい方、ノーコードで自分で作れるのか知りたい方もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、AIアプリ開発とは、生成AIなどの機能をアプリに組み込んで使える形にすること、またはAIを使ってアプリ作りを進めることです。 前者では、AIそのものより「AIの外側の仕組み」を作る量のほうが多くなります。後者では、AIが出したものを人が確認する工程を省けません。どちらの場合も、小さく試して確かめながら進めるのが基本です。
この記事では、官公庁・公的機関・各社の公式ドキュメントをもとに、次のことを整理します。情報は2026年9月時点のものです。
- AIアプリ開発の2つの意味と、ふつうのアプリ開発との違い
- 3つの作り方(画面で組み立てる・APIでコードを書く・端末の中で動かす)と、選ぶ順番
- AIアプリの仕組み(RAG・ツール呼び出し・AIが間違えるときの備え)
- 試作から運用までの進め方と、費用・期間が決まる要因
- 公開前に確かめたい安全面・個人情報・アプリストアのルール
AIアプリ開発とは?ふつうのアプリ開発との違い
AIアプリ開発の2つの意味:AIを組み込む・AIに作らせる
「AIアプリ開発」という言葉は、次の2つの意味で使われています。検索で出てくる記事も、この2つが混ざっていることがあります。
- AIを組み込んだアプリを作る:チャットで質問に答える、文章を要約する、社内の資料から答えを探す、写真を見分ける、といったAIの機能を、画面のあるアプリやサービスの一部として作ることです。
- AIを使ってアプリを作る:プログラムを書く作業を、AIのコーディング支援や、文章で指示するとアプリを作ってくれるサービスに手伝わせることです。作られるアプリにAIが入っているとは限りません。
この記事は、前者を中心に説明し、後者は「AIに作らせる方法と注意点」の節でまとめます。2つを分けて考えると、「何を作るのか」と「どう作るのか」を別々に決められます。
AIアプリでできること
AIを組み込んだアプリで、よく作られるものを整理します。
- 文章を扱うもの:問い合わせへの返信案の作成、議事録の要約、文書の翻訳や書き直し
- 社内の資料に答えさせるもの:規程やマニュアルを読ませて、質問に答える仕組み
- 画像・音声を扱うもの:写真や動画から状況を読み取る、音声を文字にする
- 数字を予測・判定するもの:需要の予測、異常の検知、不良品の見分け
- ほかのシステムを動かすもの:AIが判断して、予約や登録などの操作を呼び出す
自社で作った実例は、AI開発事例100選にまとめています。業種ごとに、何を作りどんな段階まで進んだかを、公表資料で整理した記事です。
AIアプリに向く仕事と、向かない仕事
作る前に、その仕事がAIに向いているかを考えます。以下は、この記事の説明をもとにした筆者の整理です。
- 向く仕事:文章や資料が多く、下書きや要約で手間が減る仕事。答えが多少ぶれても、人が見て直せる仕事。手順が決まっていて、同じ種類の依頼が繰り返し来る仕事
- 向かない仕事:間違いが許されず、人が確認する余裕もない最終判断。正解が1つに決まっていて、毎回同じ結果が要る計算や照合(ふつうのプログラムのほうが向いています)
- 注意して進める仕事:金額・法律・医療・個人情報にかかわる仕事。AIには下書きまでを任せ、最後は人が判断する形にします
総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は、AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を入れる利用を検討するよう求めています。向かないと思った仕事も、人の確認を組み込めば、下書きの部分だけAIに任せられることがあります。
ふつうのアプリ開発との違い
ふつうのアプリは、「この操作をしたら、この結果を出す」という決まりを人が書き、そのとおりに動くかを確かめます。AIアプリでは、その決まりの一部を、AIの判断に任せます。ここから、次の3つの違いが生まれます。
同じ入力でも、答えが毎回同じとは限らない
AIの出力は、聞き方や文脈によって変わります。「正しく動いたか」を、1回の実行で判断できません。あらかじめ用意した多くの質問で試し、どのくらい期待に沿った答えが返るかを見て判断します。
AIの外側の仕組みが大きくなる
AIアプリでは、AIを呼び出す部分は全体の一部です。ログイン、データの保存、利用者ごとの履歴、料金の管理、エラーの処理といった「周りの仕組み」を作る量が多くなります。筆者が作って公開しているWebアプリでも、その傾向がありました(あとの「筆者が作ったアプリで分かったこと」で説明します)。
AIが間違えることを前提に作る
総務省の令和6年版 情報通信白書は、生成AIが事実にない内容を、それらしい文章で出してしまう現象を、ハルシネーション(幻覚)と呼んでいます。白書は、技術的な対策が検討されているものの完全に抑えることはできないため、利用者が出力の正しさを確認することが望ましいとも述べています。AIアプリでは、間違いが出たときに気づける形と、人が確認できる形を、最初から設計に入れます。
AIアプリの3つの作り方と、選ぶ順番
AIを組み込んだアプリの作り方は、大きく3つに分けられます。以下は、公式ドキュメントの説明をもとにした筆者の整理です。
画面で組み立てる(ノーコード・ローコード)
ノーコードとは、プログラムのコードを書かずにシステムを作ることで、ローコードとは、最小限のコードで作ることです。IPAのDX SQUAREは、ノーコード/ローコード開発の解説で、この2つには厳密な違いはないと述べています。同じページは、作れる範囲が道具の機能に限られるため、柔軟性や汎用性は低くなる、という限界も挙げています。
AIを組み込む道具もあります。MicrosoftのCopilot Studioは、画面操作とローコードでAIエージェントを作って管理する道具です。Difyは、ドラッグ&ドロップの画面でAIの処理の流れを組み立て、アプリとして公開できます。Google CloudのAgent Studioは、コードなしでAIエージェントを設計できる道具で、同じ基盤には、コードで作る手段(Agent Development Kit)も並んでいます。
向いているのは、社内向けの小さな道具や、試作です。反対に、独自の画面や複雑な処理が要るときは、道具の機能の範囲に収まらなくなることがあります。
生成AIのAPIを使って、コードで作る
API(アプリどうしが機能をやり取りする窓口)を通して、生成AIをアプリから呼び出す作り方です。画面・ログイン・データの保存などは自分で作り、文章を作る部分だけを外部のAIに任せます。自由度が高く、独自のサービスを作れますが、コードを書いて動かし続ける力が要ります。
この作り方では、AIの呼び出しの回数や量に応じて料金がかかるのがふつうです。費用の考え方は、あとの節で説明します。
端末の中で動くAIを使う(スマホアプリ向け)
クラウドのAIを呼び出さず、スマートフォンなどの端末の中でAIを動かす作り方もあります。Androidの開発者向けページでは、Gemini Nanoについて、ネットワークにつながなくても、データをクラウドに送らずに生成AIの機能を提供できると説明しています。同じくGoogleのML Kit GenAIは、端末の中で生成AIのモデルを動かし、データをその場で処理することで、利用者のプライバシーを高められるとしています。
AppleのFoundation Modelsのドキュメントは、端末の中のモデルは、要約や情報の抽出、文章の推敲など、いろいろな文章作成に向くと説明しています。より高い推論力や長い文脈が要るときは、Private Cloud Computeやサーバー側のモデルを使うとも書かれています。
端末の中で処理するかどうかは、機種や対応するOSに左右されるため、使える機種の範囲を事前に確かめます。なお、Appleのページには、データを外に送らないと明言した文が見つからなかったため、この記事ではAndroid側の説明だけを根拠にしています。
自社の例では、S社(製造業)向けの「過去の見積もりから似た案件を探す仕組み」のデモ版が、ブラウザの中だけで動き、データを外に送らない作りです。見積もり依頼書のPDFを読み取って表記ゆれをそろえる部分までを作り、生成AIなどの外部のAIはつないでいません。「AIを入れる前に、データの形と探し方を確かめる」という順番で進めた例です(自社記事の実例より)。
3つの作り方の比較表と選ぶ順番
| 観点 | 画面で組み立てる | APIでコードを書く | 端末の中で動かす |
|---|---|---|---|
| 向いている用途 | 社内の小さな道具・試作 | 独自の画面や処理があるサービス | 通信できない場所・データを端末から出したくない機能 |
| 必要なもの | 道具の契約と設定 | 開発の技術・サーバー・API契約 | 対応する機種とOS・モバイルの開発の技術 |
| 自由度 | 道具の機能の範囲 | 高い | 端末の性能と提供される機能の範囲 |
| 注意点 | 作れる範囲の限界 | 周りの仕組みを作る量が多い | 使える機種が限られる |
選ぶ順番
筆者は、次の順で考えることをすすめます。
- まず、既に使っているサービス(チャットAIや業務ツール)の機能で足りないかを確かめる
- 足りなければ、画面で組み立てる道具で試作する
- 独自の画面・課金・ほかのシステムとの連携が要るとなったら、APIでコードを書く
- データを端末から出したくない、通信が無くても動かしたい機能だけ、端末の中で動かす
この順番にする理由は、手間とお金を小さく始められるからです。経済産業省のAI導入ガイドブック(製造業)(国立国会図書館の保存版)も、AI導入の心構えとして、小さく素早く始め、継続的・段階的に育てていくことが重要だと述べています。AI開発全体の種類と進め方は、AI開発とはで整理しています。
AIに作らせる方法と、任せきりにしない注意
もう1つの意味の「AIを使ってアプリを作る」方法です。大きく2つあります。
- コーディング支援:プログラムを書く人の横で、AIがコードを提案し、質問に答えます。GitHubのCopilotの説明は、コードの提案やコードに関する質問への回答、変更内容のレビューを行い、提案を確認して適用するのは人だと述べています。GoogleのGemini Code Assistも、コードの補完や生成、テストの生成、デバッグの支援を挙げています。
- 文章で指示してアプリを作らせる:GoogleのAI StudioのBuildモードは、指示文から完成したアプリを作ると説明しています。Replit Agentは、ふつうの言葉で説明すれば、計画から公開までAIが進めるとしています。IPAのDX SQUAREも、AIを使って自然言語でアプリを作れる道具があると紹介しています。
ただし、AIが出したコードをそのまま信じてよいわけではありません。GitHubの責任ある利用についての文書は、生成されたコードは、構文として正しくても安全とは限らず、確認とテストを十分に行うべきだと述べています。Google CloudのGemini Code Assistの概要も、出力を使う前に検証することを勧めています。
また、AIの道具に社内の資料や個人の情報を入力するときは、扱いに注意が要ります。個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)は、あらかじめ本人の同意を得ずに、個人データを含む文章を生成AIサービスに入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性があると述べています。詳しくは、あとの安全面の節で触れます。
AIアプリの仕組み:画面・AI・データ・記録
AIアプリの基本の部品
AIを組み込んだアプリは、たいてい次の部品でできています。AIの呼び出しは、その中の1つです。
- 画面:利用者が入力し、結果を見る部分(Webの画面やスマホの画面)
- サーバー側の処理:入力を受け取り、AIに渡す文章を組み立て、答えを整えて返す部分
- AI(モデル):文章を作ったり、画像を読み取ったりする部分。外部のAPIを使う場合も、自分で動かす場合もあります
- データの保存:利用者の情報、履歴、AIに読ませる資料を置く場所
- ログイン・課金:誰が使えるかを決め、料金を受け取る仕組み
- 記録(ログ):どんな入力にどんな答えを返したかの記録。あとで間違いを調べたり、改善したりするのに使います
たとえば、生成AIに読ませる資料が社内にあるなら「データの保存」と「資料を探す仕組み」が要ります。利用者が複数いるなら「ログイン」が要ります。AIの部分は小さくても、アプリとして使える形にするには、こうした部品をそろえる必要があります。
社内の資料に答えさせる仕組み(RAG)
生成AIは、学習した内容をもとに答えるため、自社の規程や最新の情報は知りません。そこで使われるのが、RAG(検索拡張生成)という仕組みです。RAGのほか、プロンプトの工夫や追加学習を含む作り方の選び方は、生成AI開発とは?作り方の選び方と品質・費用・安全の考え方で整理しています。
AWSのRAGの解説は、RAGを、大規模言語モデルが答えを作る前に、学習データの外にある信頼できる知識のまとまりを参照するようにする仕組みだと説明しています。Google CloudのRAGの解説は、検索やデータベースなどの情報検索の仕組みと、生成AIの力を組み合わせる枠組みだと説明しています。
流れを言葉にすると、次のようになります。
- 利用者が質問する
- アプリが、社内の資料の中から質問に関係する部分を探す
- 探した部分を質問と一緒にAIに渡し、「この資料に基づいて答えて」と頼む
- AIの答えを、資料の出どころと一緒に画面に出す
こうすると、AIが資料にない話を作りにくくなります。ただし、間違いがゼロになるわけではないので、出どころの資料を画面に出し、人が確かめられる形にしておくとよいでしょう(筆者の整理)。
AIから外部の機能を動かす仕組み(ツール呼び出し)
AIが文章を作るだけでなく、予約の登録や在庫の検索など、アプリの機能を動かしたい場合があります。そのときに使うのが、関数呼び出し(ツール使用)という仕組みです。
GoogleのGemini APIの説明は、関数呼び出しを、モデルを外部のツールやAPIにつなぐ仕組みだと説明しています。Anthropicのツール使用の説明は、開発者が定義した関数をAIが呼べるようにする仕組みで、AIは依頼と関数の説明をもとに、呼ぶかどうかを決めると説明しています。
AIが判断して自分で道具を使うアプリは、AIエージェントと呼ばれます。仕組みと向いている仕事は、AIエージェントとはで整理しています。実際の登録や送信をAIに任せるときは、最後に人が確認する段階を残す設計が安全です。
AIが間違えるときの備え
前の節で紹介したとおり、AIは事実と違う内容をもっともらしく出すことがあります。アプリの設計では、次の備えを検討します(筆者の整理)。
- 答えの根拠にした資料や出どころを、画面に出す
- 重要な内容(金額・法律・医療など)は、人が確認してから使う形にする
- 「AIの回答です。誤りを含むことがあります」と、画面に明示する
- 間違いを見つけた利用者が報告できる導線を作る
AIアプリ開発の進め方と、費用・期間が決まる要因
段階1:使う人と、AIに任せる範囲を決める
最初に決めるのは、「誰の、どの仕事を、どこまでAIに任せるか」です。ここが曖昧なまま作り始めると、あとから「作ったが使われない」ことになりがちです。
- 使う人は誰か(社内の担当者か、お客様か)
- どの仕事の、どの手順を助けるのか(1つの業務に絞る)
- AIの答えを、最後に誰が確認するのか
- 扱うデータに、個人情報や秘密の情報が含まれるか
段階2:小さな試作で確かめる
次に、小さな試作(プロトタイプ)を作って試します。経済産業省のAI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)は、AIの開発を、実現可能性を調べる段階、試作で確かめる段階(PoC)、開発の段階、追加で学習させる段階に分けて進める「探索的段階型」という方式を紹介しています。この方式は、最初に要件をすべて固めるやり方と違い、試行錯誤しながら進めることを許す方式だと説明されています。また、必要な性能が出ないと分かったときは、次の段階に進まない選択ができるとも書かれています。
このガイドラインは2018年のもので、学習済みモデルを作る開発が対象です。生成AIを組み込むアプリにそのまま当てはまるとは限りませんが、「小さく試して、進むかどうかを決める」という考え方は、AIアプリでも役立ちます(筆者の判断)。
段階3:評価する
試作ができたら、期待どおりの答えが返るかを評価します。Anthropicの評価についての文書は、AIを使ったアプリをうまく作るには、まず成功の基準をはっきり決め、それに対して性能を測る評価を設計する、という順で進めると述べています。
実際には、次のように進めます(筆者の整理)。
- 「成功」の基準を決める(例:問い合わせの返信案のうち、担当者が手直しなしで使える割合)
- 実際の業務に近い質問を、まとめて用意する
- AIに答えさせて、基準に合うかを人が確かめる
- 合わなかったものを分析して、AIへの指示や資料を直し、もう一度試す
段階4:公開して運用する
公開したあとにも、やることが続きます。
記録を見る。 Difyの記録についての説明は、Webアプリ・API・そのほかの経路からの実際の利用の記録が集まると述べています。どんな質問が多いか、間違えた質問は何かを見て、改善に使います。
モデルの提供終了に備える。 外部のAIを使うアプリでは、AIの側の都合でモデルが使えなくなることがあります。OpenAIの提供終了の一覧は、新しいモデルを出すたびに古いモデルを提供終了にし、それに頼るソフトは更新が必要になることがあると述べています。Anthropicのモデルの提供終了のページも同じ趣旨で、提供終了したモデルへの要求は失敗すると書いています。GoogleのGemini APIの提供終了のページは、告知はリリースノートで行われ、停止の予定日が一覧にまとめられると説明しています。運用する側は、こうした告知を定期的に確認する必要があります。
運用の負担も見込む。 中小企業基盤整備機構の実態調査(2026年3月)によると、AIを導入したあとの運用課題として、「ランニングコストが高い」が44.0%、「運用担当者の負荷が重い」が29.1%、「従業員による活用が進まない」が28.9%でした(複数回答)。この調査は、令和7年(2025年)11月17日から12月12日に、中小企業・小規模事業者10,000社を対象に行われたもので、AIアプリに限らない、AI全般の導入についての結果です。
段階ごとの比較表
| 段階 | 決めること | できあがるもの | 止める判断の例 |
|---|---|---|---|
| 1 使う人と範囲を決める | 誰の・どの仕事を・どこまで任せるか | 目的と範囲を書いた1枚の文書 | 任せたい仕事が決まらない |
| 2 小さな試作 | 作り方(3つのどれか) | 動く試作品 | 試作でも使えそうにない |
| 3 評価 | 成功の基準・試す質問 | 評価の結果 | 基準に届かず、直しても伸びない |
| 4 公開・運用 | 誰が記録を見て直すか | 公開したアプリと運用の手順 | 運用の負担が見合わない |
社内に要る役割:作る人だけでなく、決める人と見直す人
AIアプリを作って続けるには、コードを書く人のほかにも、次のような役割が要ります(筆者の整理)。1人が複数を兼ねてかまいません。
- 業務の担当者:どの仕事の、どの手順を助けるかを決め、AIの答えが使えるかを判断する人
- 作る人:画面・サーバー・AIの呼び出しを作る人。画面で組み立てる道具なら、業務の担当者が兼ねることもあります
- 資料・データを整える人:AIに読ませる資料やデータを集め、古い情報を直す人
- 運用の担当者:記録を見て間違いを直し、モデルの提供終了の告知や規則の改定を確認する人
先に紹介した中小企業基盤整備機構の調査で、AI導入の課題に「社内のAIノウハウ不足」(42.0%)と「社内のAI人材不足」(38.8%)が挙がっていました。社内で全部そろえられないときは、作る部分だけを外部に頼み、業務の判断と運用は社内に残す分け方もあります。外注と内製の選び方は、先に紹介した「AI開発とは」の記事で扱っています。
筆者が作ったアプリで分かったこと
ここでは、自社記事「AI開発事例100選」で公開している、筆者が関わった小さな開発の実例のうち、2つを紹介します。
Webアプリ「ペットのココロ」:AIの周りの仕組みのほうが大きかった
スマートフォンで撮ったペットの動画と音声を、生成AI(GoogleのGemini)で読み解き、気持ちを推測して伝えるWebアプリです。画面はReactとTypeScript、ログインとデータの保存はSupabase、月額の課金はStripeを使っています。一般に公開しています。
筆者の経験では、生成AIを使ったサービスは、AIの部分より、ログイン・課金・データの保存など「周りの仕組み」を作る量のほうが多くなりました。前の節の「基本の部品」の考え方が、実際のアプリでも当てはまった例です。
T店(食品の製造販売):レジのデータを生成AIとつなぐ土台
何が利益につながっているかを、レジのデータから見えるようにしたいと考えていました。レジの売上データを書き出してクラウドに保存し、生成AI(ChatGPT)とつないで、保存したデータについて質問できる形にしました。あわせて、人件費を原価に入れるための、商品ごとの製造工程のシートを作りました。
ここでも、AIに質問する部分より、データを1か所に集めて、AIが読める形にそろえる部分が土台になっています。
Web・スマホ・社内ツールのどれで作るか
AIアプリを、どの形で作るかも、早めに決めます。
- Webアプリ:ブラウザで開くアプリ。web.devのPWAの解説は、ストアで配るスマホアプリは、公開できる人や内容に規則があり、更新のたびに再審査などが要ると述べています。MDNのPWAの説明によれば、PWAは、1つのコードで複数の機種で動き、端末にインストールしてオフラインでも動かせます。
- スマホアプリ:ストアで配るアプリ。端末の機能(カメラ・通知・端末の中のAI)を使いやすい一方、更新の手間と審査があります。
- 社内ツール:社内の人だけが使う道具。MicrosoftのPower Appsは、コードを書かずに業務アプリを作れ、ブラウザとスマホ・タブレットの両方で動くと説明しています。
最初は、更新しやすいWebアプリか、社内ツールで試し、必要になってからスマホアプリにするのが、手間の小さい進め方です(筆者の整理)。
費用が決まる仕組みと、決める要因
AIの利用料は、トークンの量で決まるのがふつう
外部のAIをAPIで使う場合、利用料は、AIに渡した文字と、AIが返した文字の量で決まる仕組み(従量課金)が一般的です。この量の単位を、トークンといいます。Googleのトークンの説明は、Gemini APIの呼び出しの費用は、入力と出力のトークンの数で一部が決まると述べています。OpenAIの料金のページは、価格を100万トークンあたりで示しています。
料金は会社やモデルによって違い、変わることもあります。金額は公式の料金ページで確かめてください(この記事では金額を書きません)。
費用と期間を左右する要因
費用や期間は、アプリの内容によって大きく変わるため、一律の相場は示せません(公的な統計も見つかりませんでした)。次の要因で決まると考えると、見積もりを比べやすくなります。
| 要因 | 費用・期間が増えやすい例 |
|---|---|
| 作り方 | 画面で組み立てるより、コードで作るほうが手間が多い |
| AIの利用量 | 利用者が多い、長い文章を扱う、画像や動画を扱う |
| つなぐ先 | 社内の資料・ほかのシステムと連携する |
| 人の確認 | 出力を人が確認する仕組みを作る |
| 安全面・ルール | 個人情報を扱う、ストアの審査に対応する |
| 運用 | 記録の確認、モデルの更新への追従 |
導入の課題としてよく挙がること
前に紹介した中小企業基盤整備機構の調査では、AI導入で感じている課題を尋ねたところ、いちばん多かったのは高コスト(46.9%)で、社内のノウハウ不足(42.0%)、社内の人材不足(38.8%)が続きました(複数回答)。
費用の全体像はAI導入の費用で整理しています。
公開前に確かめたい安全・ルールと、よくある失敗
入力で動きを変えられる:プロンプトインジェクション
AIアプリには、ふつうのアプリにはない弱点があります。OWASP(Webの安全性を扱う国際的な非営利団体)のLLM01:プロンプトインジェクションは、利用者の入力が、AIの動作や出力を意図しない形で変えてしまう脆弱性だと説明しています。同じページは、人の目には見えない入力でも、AIが読み取れれば影響を与えうると述べています。
たとえば、外部から届いたメールやWebページをAIに読ませる機能で、その中に「これまでの指示を無視して…」という文が隠れていると、AIが従ってしまうおそれがあります。備えとして、次のことを検討します(筆者の整理)。
- AIに与える権限を、必要最小限にする(メールの読み取りだけで、送信や削除はさせない)
- 外部の文章を読ませるときは、その中の指示に従わないよう設計する
- 送信・登録・削除のような重要な操作は、人が確認してから実行する
個人情報と秘密の情報の扱い
OWASPのLLM02:機密情報の漏えいは、機密情報の問題は、AIそのものだけでなく、AIを組み込んだアプリの側にも及ぶと説明しています。同じページは、アプリ側で、利用者のデータが学習に入らないよう、データの無害化を行うべきだとしています。
日本の法律の面では、個人情報保護委員会の注意喚起が、個人データを含む文章を生成AIサービスに入力するとき、そのサービスの提供事業者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています。あらかじめ本人の同意を得ずに入力し、応答の出力以外の目的で扱われる場合に、法律に違反する可能性があるという前提の文です。入力した個人情報がAIの学習に使われることがある、という一般の利用者向けの注意も書かれています。
アプリを作る側は、AIに送るデータに個人情報が含まれるかを洗い出し、含めない設計(名前や番号を伏せてから送る)や、利用者への説明を考えます。データの扱いは各社で異なるため、使うAIの公式の説明を確かめます。
アプリストアのルール
スマホアプリとして配る場合は、ストアの規則にも従います。
- Apple:App Review Guidelines(2026年9月30日に確認した版)は、個人データを第三者のAIを含む第三者と共有する場合は、そのことを明確に開示し、共有の前に明示的な許可を得るよう定めています。
- Google Play:AI生成コンテンツについてのポリシーは、AIでコンテンツを作るアプリに、アプリの中で利用者が不適切な内容を開発者に通報・フラグ付けできる機能を求めています。
規則は改定されるため、公開の直前に、最新の内容を確認してください。
開発する側・提供する側の役割と、安全性の点検
総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は、AIに関わる事業者を、開発者・提供者・利用者などの役割ごとに、取り組みを整理しています。提供者は、開発者が作ったAIシステムに付加価値を加えて、利用者にサービスとして提供する役割です。ガイドラインは、一般には、開発者がAPIの仕様や入出力の設計、インフラの整備を担い、提供者が画面や使い勝手の設計、既存の業務システムとの統合を担うと説明しています。外部のAIを使ってアプリを作って配る会社は、多くの場合「提供者」の立場になります(筆者の解釈)。
共通の指針として、AIだけに判断させず、適切なタイミングで人間の判断を入れる利用を検討すること、不正な操作でAIの振る舞いが変わったり止まったりしないようセキュリティを確保することが挙げられています。
攻撃に強いかを確かめる方法として、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)のレッドチーミング手法ガイドがあります。レッドチーミングとは、AIシステムの開発者や提供者が、施したリスクへの対策を、攻撃者の視点から評価する手法です。ガイドの第1.10版は、一度行えば終わりではなく、新しい脅威が心配されるときや、想定外の問題が起きたときにも検討するとしています。
よくある失敗と誤解
「AIを入れれば完成」ではない
AIの呼び出しはアプリの一部です。ログイン・データの保存・記録・エラー処理を作らないと、使える形になりません。見積もりでも、AIの部分だけでなく、周りの仕組みが含まれているかを確かめます。
「AIに作らせたコードなら安全」ではない
GitHubやGoogle Cloudの文書は、生成されたコードを、使う前に確認し、テストすることを求めています。公開するアプリは、人が確認する工程を残します。
「ノーコードなら何でも作れる」わけではない
IPAが述べるとおり、作れる範囲は道具の機能に限られます。試作には向きますが、独自の画面や連携が増えると、コードで作る方式に移ることになります。最初から、移るときの見通しも考えておきます。
「一度作れば終わり」ではない
外部のAIのモデルは、提供が終わることがあります。記録を見ながら直し、提供終了の告知を確かめる運用の手間を、最初から見込みます。
チェックリスト:AIアプリを作り始める前に
- 誰の、どの仕事を助けるアプリか、1つに絞った
- AIの答えを、最後に誰が確認するかを決めた
- 作り方(画面で組み立てる・API・端末の中)を、選ぶ順番に沿って決めた
- AIに送るデータに個人情報や秘密の情報が含まれるかを洗い出した
- 使うAIの、データの扱い(学習に使われるか)を公式の説明で確かめた
- 小さな試作を作り、試す質問を用意した
- 成功の基準を決めた
- AIに与える権限を最小にし、重要な操作は人が確認する形にした
- 公開先(Web・ストア・社内)の規則を確かめた
- 記録を誰が見て直すか、モデルの提供終了の告知を誰が確認するかを決めた
AIアプリ開発についてよくある質問(FAQ)
Q1. プログラミングができなくても、AIアプリは作れますか?
作れる場合があります。IPAは、ノーコードを、コードを一切書かずにシステムを開発することだと説明し、AIを使って自然言語でアプリを作れる道具もあると紹介しています。ただし、作れる範囲は道具の機能に限られます。まず小さな社内ツールで試し、足りなくなったらコードで作る方式を検討するのが現実的です。
Q2. AIアプリ開発には、どのくらい費用がかかりますか?
内容によって大きく変わるため、一律の金額は示せません。作り方、AIの利用量、つなぐ先、人の確認の仕組み、安全面への対応、運用で決まります。中小企業基盤整備機構の調査では、AI導入の課題で最も多かったのが「導入にあたっての高コスト」でした。まず小さな試作で、必要な費用の見当をつけるのがよいでしょう。
Q3. ChatGPTのようなAIを、自社のアプリに入れるにはどうしますか?
多くの場合、AIの提供会社のAPIを使います。アプリからAIに文章を送り、返ってきた答えを画面に出す形です。利用料は、送った量と返ってきた量(トークン)で決まる従量課金が一般的です。料金は会社やモデルによって違うので、公式の料金ページで確かめます。
Q4. AIに作らせたアプリを、そのまま公開してよいですか?
そのままの公開はおすすめしません。GitHubやGoogle Cloudの文書は、生成されたコードを使う前に確認・検証することを求めています。動作の確認、安全面の確認(個人情報・権限)、公開先の規則の確認を、人が行ってから公開します。
Q5. 社内のデータをAIに入れても大丈夫ですか?
データの中身と、使うAIの扱いによります。個人データを含む場合は、個人情報保護委員会の注意喚起が求める確認(提供事業者が機械学習に使わないかなど)が要ります。秘密の情報は、学習に使われない契約かを確かめ、必要なら名前や番号を伏せてから送ります。
Q6. スマホアプリとWebアプリは、どちらがよいですか?
まずは、更新しやすいWebアプリか社内ツールで試し、端末の機能が必要になってからスマホアプリにする進め方が、手間が小さくなります。ストア配布のアプリは、公開できる人や内容に規則があり、更新のたびに再審査などが要るとweb.devが説明しています。
Q7. AIのモデルが提供終了になったら、どうなりますか?
OpenAI・Anthropic・Googleは、いずれも古いモデルを提供終了にすることがあります。Anthropicは、提供終了したモデルへの要求は失敗すると書いています。各社の告知を定期的に確認し、新しいモデルに切り替えて、答えの質が落ちていないかを、用意した質問で確かめます。
まとめ:AIアプリ開発は、小さく試して、人の確認を残す
要点サマリー
- AIアプリ開発には、AIを組み込んで作る場合と、AIに作らせる場合の2つの意味がある
- 作り方は3つ。既存のサービス→画面で組み立てる→APIでコード→(必要なら)端末の中、の順に考える
- AIアプリでは、AIの外側(ログイン・データ・記録)の仕組みを作る量が多くなる
- 進め方は、範囲を決める→小さな試作→評価→公開と運用。費用は金額でなく決まる要因で見る
- 公開前に、プロンプトインジェクション・個人情報・ストアの規則を確かめ、人が確認する工程を残す
読者タイプ別の次の行動
- 経営者・事業責任者:任せたい仕事を1つに絞り、AIの答えを誰が確認するかを決める
- 情報システム・開発の担当者:画面で組み立てる道具で小さな試作を作り、試す質問を用意して評価する
- 自分で作ってみたい人:AIのコーディング支援や、文章で作れる道具で試作する。公開する前に、動作と安全面を人が確認する
さらに確かめておきたい観点
- 使うAIの、データの扱いと料金(公式の最新の説明)
- 公開先(Web・ストア・社内)の規則の最新の版
- 個人情報を扱うときの、自社の同意の取り方と、本人への説明



